PHILOSOPHY
東京を拠点に活動する写真家、画家であるTISCHによるファッションフォトZINE。毎号一人のモデルを選び、風景やスチルライフ、ペインティングと絡めて小さな写真集のように表現していく。
被写体はファッションモデルから選ばれる。ファッションモデルは、俳優でもなく、アーティストでもなく、思想家でもなく、活動家でもない、最も純粋に「見られること」を職業とする人々であり、フェミニズムの渦中にあって、Male Gazeの歴史を最も強く背負ってきた存在とも言える。Male gazeは、すなわち「美」の定義は長らく男性主体の体制的なものの見方であり、女性を「美」という価値観によって消費し尊厳を奪うものであることを指摘する言葉だが、主体が男性で客体が女性である場合に限らず、視線を巡る加害者と被害者の関係性は常に問題視され、言及される。正解が新たな不正解となり時代と共に発展していく被写体の尊厳の問題について、自分なりに会話のテーブルを持ってみたいというのが、まずは第一の筆者TISCHの意図である。
第二に、ヤーコプ・フォン・ユクスキュル(J.v.Uexküll)の「A Foray into the Worlds of Animals and Humans(邦題:生物から見た世界)」を参照する。いかなる小さな生き物にも「環世界Unwelt」が存在し、世界について認識し、行動する主体がある。すなわち、「共通の世界」はこの世に存在しない。これに依拠するなら、世界は、個々の主体が持つ個々の世界がパラレルワールドのように組み合わさっているものとしてイメージされる。我々の見ているパラダイスは、他の生き物にとっては荒涼の地平である。
THEO JOURNALはこのイメージを契機としながら、さらに生態学、現象学をレイヤーに持ち、近代から現代に至る美学上の問題、すなわち「美」を巡る主体のあり方についての論とフェミニズムとを繋いで、それぞれの袋小路を突破しようするものである。
TISCHは東京藝術大学で美学を専攻。日本デザインセンターのトレイニーとしてコマーシャルフォトを学び、写真家のみならず画家、プロダクトデザイナーという異色な技能を持つ。本書は作家にとって最もネイティブな言語である現代美学やジェンダーの分野において読者に新たなマインドセットを用意しようという野心であり、ファッションフォトの多様化する価値観の葉脈の先に、独自のルールブックを持った遊び場を提供しようという企みである。ファッションのオーディエンスに商業写真のボーダーを超えて発表される本シリーズは初めて世に伝えられるTISCHの、ラディカルな作家性の真骨頂と言えよう。